あっという間に寒くなり、暦の上ではまもなく大雪(今年は12月7日)を迎えます。みなさんの食卓にも新米が並んだ頃でしょうか。そして秋冬野菜の生産もそろそろ本番ですね。
今日は、11月21日に行われた農業講座のフォローアップをお届けします。
それでは豊嶋和人さん、よろしくお願いします。
今回は「インターネットや雑誌のあれって本当なの?」と題しまして、事前に質問を募り、いつもとは違った形で開催しました。質問パートと用意したレジュメの二部構成でしたが、レジュメのほうの説明が駆け足になってわかりにくかったと思いますので振り返ってみたいと思います。
とにかく日本は広いうえに、土地によってたくさんの種類の土がありますから、インターネットや雑誌の栽培に関する体験談や記述はそれらの違いを踏まえて読む必要があるというお話でした。
まずは土です。土が違うとなにが変わってくるでしょうか。
まんのう町内の土は主に灰色低地土や褐色低地土ですが、関東や九州に多い火山灰土のような軽い土は作業性がとても楽です。ご質問のなかに耕うん機に関するものがありました。重い土ですと畝立てや耕うんなど作業に応じてそれを得意とする耕うん機を用意したいですが、予算や置き場などの制約があり悩ましいところです。しかし軽い土では高い畝を立てる必要もないため機械も汎用のもので済んでしまいます。ということはおすすめの耕うん機を紹介している動画などではその畑の土がどんな土なのかをあわせて見る必要があるということです。
さらにはトンネルやマルチの張り方も変わります。杭がしっかりと入って容易に抜けない土でないと杭を打つ意味がありません。このあたりだと冬場のレタスなどには杭を打ってマイカ線でトンネルフィルムを押さえますね。下のような感じです。
杭の入らないサラサラの土では土でトンネルの裾を押さえます。換気はどうするのかというと春になるにつれてフィルムに穴を開けていきます。あるいは最初から穴が空いたフィルムを使用します。上の写真はフィルムを二重に張っていますが、内側は最初から穴が空いているフィルムです。
香川県のレタス屋さんが畝の上だけマルチを張ってその上に土を乗せているのをよく見かけますが、じつはこれは全国的にはあまり見ない方法です。一般的にはマルチの裾を下まで垂らしてそこで土を寄せて押さえます。どうしてこういう独特の技術が普及しているのかたいへん興味深いですが、ひとつにはマルチの片付けがしにくい土質のため、生分解マルチを利用して片付けなくてもいいようにしたのでしょう。こういうのですね。↓
気候、特に温度の差も重要です。日平均気温が1℃違うと言われても服やエアコンで調節できる人間には大した違いではないでしょう。しかし、日の平均気温を足していく積算気温で成長の速度が変わってくる作物では、1℃も積もれば大ちがいです。以前、1月に植えて4月の端境期にトンネルがなくとも収穫できるブロッコリー品種のことを種苗メーカーのカタログで知りました。ただしそれは福岡県久留米市での話です。では久留米市とここでは冬の気温にどれくらいの差があるでしょう。九州とは言え日本海側だし、あまり変わらないのではと考えながら調べると、生育期間中の日平均気温が1℃も違います。それならばというわけで、定植後に不織布でべたがけをかけてあげたところ、ちょうど久留米市と同じころに収穫できました。
不耕起栽培や無肥料栽培が理想的な栽培として紹介されることがありますけれども、これも条件次第です。このあたりの土は重く、雨ですぐに固まってしまうので耕起をしないとなかなか難しそうです。軽い土ならば不耕起栽培ができることもあるでしょう。というよりも軽い土は不耕起栽培に大きなメリットがあるのです。軽い土は耕うんによってほぐされると風で流亡しやすくなり、ということは土が減ってしまうということですからそれは避けたいですよね。
肥料がものすごく値上がりしている昨今、無肥料栽培ができればこんなにうれしいことはありません。ところで、作物が吸っているのは肥料でしょうか。厳密には違います。施肥した肥料を含む土壌中の養分です。ものすごく保肥力の強い土では開墾時などに大量に入れた堆肥やリン酸肥料の養分を少しずつ取り崩しながら作物が育つことがあります。これも土次第の話ですね。
そんなわけで所変われば畑仕事もおおいに変わってくるわけですけれども、それを踏まえた上でなるべく確かな栽培情報を得ようと思えば、全国各地の農業試験場のウェブサイトに掲載されている試験結果を参考にするのも楽しいです。
大産地の農業試験場にはその品目に関する知見が蓄積されています。例えば暖地タマネギならば佐賀県、キャベツなら千葉県といった具合です。意外なところでは東京の農業試験場のデータも参考になるんですよ。なぜならば東京の農業は、規模は小さくとも大消費地ど真ん中の立地を活かした鮮度勝負です。そこで鮮度が命のスイートコーンや枝豆の品種試験を頻繁に行っています。これが農産物直売所へ出荷する品種の選択に役立つというわけです。
もちろん地元の香川県農業試験場も大いに参考にしてください。香川県農業試験場が毎年発行している『研究報告』と研究成果集の『豊穣』は図書館にも置いてあります。香川県の農業試験場はお隣綾川町にありますが、綾川町の滝宮公民館で行われている家庭菜園教室のテキストが冊子になったものも郷土資料にあります。これはたいへんな力作です。ちゃんと綾川町の風土に根ざした記述になっているのがいいですね。家庭菜園や農業は風土を味わいながら楽しむ科学実験です。実験ですから仮説を立てて結果を検証しましょう。そのサイクルをうまく回すために知識はあって困ることはありません。図書館の本やウェブサイトなどを上手に使って楽しみましょう。
今回の講座で以下の本を紹介しました。
日本土壌協会『土づくりと作物生産』 6135ニ
農文協『農家が教えるマルチ&トンネル(張り方・使い方のコツと裏ワザ』 626ノ
藤井一至『大地の五億年(せめぎあう土と生き物たち)』 6135フ
中村宜督『食品でひく機能性成分の事典(からだにいいってホント?)』 料理1食品栄養学
畝山智香子『ほんとうの「食の安全」を考える(ゼロリスクという幻想)』 料理1食品栄養学
香川県農業試験場『香川県農業試験場研究報告』 6107カ
香川県農業試験場『豊穣』 6107カ
長尾義夫『綾川町家庭菜園教本』 6269ア
毎回、農業はとても奥深い……と感じますが、講座の中で「畑仕事は風土を味わいながら楽しむ科学実験」という言葉を聞いてとても納得しました。
今回参加されたみなさんからは沢山質問をお寄せいただきました。豊嶋さんには時間いっぱいまで質問にお答えいただきましたが、まだまだみなさん聞きたいことがある様子でした。
図書館では、備え付けの質問用紙やメールで随時質問を受け付けておりますので、ぜひご利用くださいね。
次回は、座談会スタイルで、ざっくばらんに豊嶋さんと参加者みなさんでお話しできる農業講座を計画中です。お楽しみに!!