ようやく暑さも少し和らぎ、猛暑の峠を越えた感じですね。
日中はまだまだ残暑を引きずっていますが、朝夕は窓を開けると「秋」の気配を感じさせるような風が入り込んできたりもしますよね。
家庭菜園や園芸を楽しまれている方たちも、外での作業が少し楽になったのではないでしょうか。
本日も、豊嶋和人さんによる「農業講座」始まります (^^♪
【キャベツ・ブロッコリーとレタスは同じ肥料で育ててええんやろうか? 後編】
前回からずいぶん間が空いてしましました。急いで肥料をふりましょう。秋冬野菜といえば、なんといっても香川県の特産品でもあるレタスとブロッコリー。それにキャベツやハクサイ、あとはホウレンソウもいいですね。
さて本題です。キャベツやブロッコリーとレタスの肥料について考えてみます。
前回(注1)、堆肥を選ぶ際には窒素の量と割合がだいじだという話をしましたけど、秋冬野菜の肥料を選ぶ際は窒素の形態がだいじになります。今回も窒素に絞ったお話をします。
(注1)第5回 ブログ版「農業講座」参照
肥料の三要素といえばなんでしょう。窒素、リン酸、カリ(カリウム)ですね。NPK.。そのうちリン酸とカリについはおおむねそのものリン酸とカリが水に溶けて根から吸収されます。窒素の場合も水に溶けて吸収されるのには違いないんですけど、窒素ってそれ自体はほとんど水に溶けないんですよね。空気中にいっぱいありますけどそのままでは利用できません。なので水に溶ける窒素成分の形で根から吸収されます。
根から吸われる窒素成分の代表は硝酸とアンモニアです。硝酸は畑作物、アンモニアは水稲によく利用されます…と土壌肥料の本には書かれているのですが、例外があります。畑作物なのにアンモニアが大好きなのはお茶のようなツバキ科の作物です。お茶の他にはブルーベリーもツバキ科ですね。
野菜はどうかというと、キャベツやブロッコリーなどのアブラナ科野菜、トマトやナス、ピーマンなどのナス科野菜は硝酸が大好物です。じゃあレタスはといいますと、レタスは硝酸もアンモニアも同じくらい好む珍しい野菜なんです。ちなみにレタスはキク科です。
では硝酸大好物の野菜には硝酸入りの肥料を与えればいいかというと、話はそう単純ではありません。ここからが面白いところです。窒素を含む各成分は土の中で様々に変化します。
(図1)
ところで、前々回(注2)、石灰で酸度を調整する話をしましたけど、石灰で酸度を調整する目的は実はアルミニウム害を抑えたり、リン酸の効きをよくするだけではないんです。石灰で酸性を中和してpHを7前後の中性に近いところにしてあげると、この表にあるような微生物が活発に活動して窒素が吸収されやすい形態になりやすく、窒素肥料の効きがよくなります。よくお店で石灰質肥料のPOPに「肥料の効きがよくなります」と書いてありますが、それは窒素とリン酸の効きをよくするという意味なんですね。ただ、カリの効きはよくしません。むしろカリと石灰(カルシウム)は拮抗作用と言って、どちらかが多すぎるともう一方の吸収を阻害する関係にあります。
(注2)第4回 ブログ版 農業講座 参照
理屈が長くなってしまいました。今回も実際の肥料の生産業者保証票を見ながら説明します。まずはキャベツ・ブロッコリーなどアブラナ科野菜用にうちで使っている肥料です。
窒素が12%含まれていて、そのうち7.4%がアンモニアです。(上記 写真①)
窒素全量を保証する原料の欄には尿素しか書いていませんから、残りの4.6%は尿素に含まれる窒素分です。尿素はハンドクリームやその名の通り尿の成分としてお馴染みですが、土中では微生物によってすぐにアンモニアに分解されます。
好物の硝酸が含まれてないじゃないかと思いませんか。いいんです。さきほどの図1にあるように、アンモニアは微生物のはたらきで徐々に硝酸に変化します。植え付け時には根がそれほど発達していませんから、硝酸がいっぱいあっても吸えません。吸われない硝酸は草が吸うか、地下や空気中に逃げます。もったいないですね。
次はレタスに使っている肥料です。
原料を詳細に書いてくれています。(上記 写真②) ありがたいですね。硫酸アンモニアや尿素などの化学肥料と油かす、皮革工場から出た残りくずなどの有機質肥料を混合したもので、ここには書いていませんが、カタログには窒素の有機率が54%とありました。キャベツ・ブロッコリー用肥料のところでも書きましたが、アンモニアや尿素は徐々に硝酸に変化します。有機質肥料はゆっくりとアンモニアに分解されたあとに硝酸に変化します。レタスはアンモニアと硝酸が半々くらいでよく生育すると言われます。生育期間中、常にアンモニアも硝酸も吸収できるような有機質を多く含む肥料を選ぶのがレタス栽培のコツです。堆肥をたくさん施すと徐々にアンモニアが放出されますのでそれも効果的です。レタスの外葉は大きくなるんだけど小玉しかできない、あるいはふわふわの玉にしかならないという経験のある方は試してみてください。
硝酸が最初から入っている肥料では、保証票に硝酸性窒素の割合を示す欄があります。(上記 写真③)
この肥料は原料を書いてくれていませんが、成分比率から推測するに、窒素22%のうち20%までが硝安、残り2%がアンモニアとリン酸が結合したリン酸アンモニウムでしょう。硝安は8月にレバノンの首都ベイルートの港で2000トン以上の硝安の大爆発があったように火薬の原料にも使われる物質です。なので欄外にあれこれと取扱いの注意書きがされています。
硝酸は植物がすぐ利用できる窒素分ですが、地下に流亡したり微生物によるガス化により空気中に逃げやすいという難点があります。じゃあいつ使うかというと、その難点を回避できる場合に使います。大雨が降らなくて、微生物がはたらかないのは寒い冬です。寒い冬にはアンモニアや硝酸を作り出す細菌もはたらきが鈍くなって、硝酸が土中に供給されにくくなりますから、そういう場合に追肥として使うとたいへん効果的です。余談ですが、水耕栽培や土を使わない培地の養液栽培では土壌微生物の助けがないため、最初から硝酸をたくさん含んだ養液を流します。
むりやりまとめますと、窒素肥料は作物と土壌微生物の都合に合わせて選びましょうというお話でした。
ブルーベリーはツバキ科で、レタスはキク科…。
園芸ど素人のワタクシにとっては、目からウロコのお話です (^^♪
豊嶋さん、今回もありがとうございました。