お待たせしました‼
2月にアップした「みんな知りたい病害虫のこと」後編の第2弾が届きました。前回に引き続き、テーマは「イネにつく虫」。講師は、もちろん豊嶋和人さんです。
今回は、あっと驚く新事実が発覚しますよ!
【みんな知りたい病害虫のこと 後編イネにつく虫②】
前回からずいぶん間があいてしまいました。カメムシ以外の稲につく虫のお話をしたいと思います。
稲につく虫と聞いて思い浮かべる虫は世代によってだいぶ違うのではないかと思います。80歳以上ならば茎に幼虫(いもむし)が入って大きな被害をもたらしたニカメイガ、サンカメイガが浮かぶのでしょうか。それらの虫はコンバインによるわらの裁断や稲の品種改良によってほぼ絶滅してしまいました。
40歳以上ならばウンカでしょうか。余談ですが、全身が緑色でお尻だけ黒い、家の灯りをめがけて入ってくる小さな虫が昔はよくいましたよね。あれはツマグロヨコバイといって、同じカメムシ目ですがヨコバイの仲間でウンカとは異なります。じゃあウンカってどんなんよと言われるとセミ(セミもカメムシ目です)をちっちゃくしたような虫ですが、じつはわたしもちゃんと見たことがありません。水田には水を張ってますし、多くのウンカは稲の比較的下の方で汁を吸っているからです。
今年は普段見えない稲の虫を観察するために陸稲を植えてみようと考えています。畝を立てて陸稲を植えるなら観察が容易です。陸稲にはアブラムシもつくようですが、それはそれで観察が楽しみです。
というわけで陸稲の苗を立ててみました。今回の写真はこれだけです。
さてウンカですが、記憶が新しいところで一昨年の秋、丸亀平野でも結構、「坪枯れ」という現象が見られました。まるでミステリーサークルのように田んぼの稲が円形に倒れて枯れているのです。ひどいところでは田んぼ一枚全部枯れます。これはトビイロウンカというウンカが株元の茎の汁を吸って収穫期の稲を倒してしまうものです。
このウンカの被害が出るのは9月中旬以降ですが、田んぼに侵入するのは6月から7月にかけてです。中国南部からベトナム北部の東海岸を飛び立ったウンカは梅雨時期のジェット気流に乗って日本までやってきます。そうして降り立った水田にそのまま滞在し、世代を重ねて増殖し、秋に大きな被害を及ぼすというわけです。稲を枯らしたウンカは田んぼを飛び立ちますが、日本の気候では越冬できず、かといって大陸に戻ることもできず、死滅します。なんとも悲しい虫ですね。
去年は坪枯れは発生しませんでした。同じくジェット気流に乗ってくるツマジロクサヨトウも見かけませんでした。去年は梅雨入りが5月と早く、これらの虫の飛来も早くなるのではないかと警戒していたのですが、肩透かしを食いましたね。このあたりがトビイロウンカの難しいところです。
とはいえ、その前年は珍しく香川県でも坪枯れ被害が出たように、トビイロウンカの被害は西日本各地で近年目立っています。温暖化で到着後のウンカが以前より増えやすくなっているのかもしれません。
もうひとつ言われているのは、殺虫剤抵抗性ウンカのまん延です。トビイロウンカが生息している亜熱帯では年に2回稲を作ることができますが、そういった地域でも近年は省力化、収量アップのために殺虫剤を使用します。作付回数が多いところで同じ殺虫剤を連用すると、抵抗性を持ったウンカが出現します。そして日本に飛んできて育苗箱施用の殺虫剤が効かずに増殖し、被害を及ぼすというわけです。それに対応するために、西日本で使う育苗箱施用の殺虫剤も最近ガラッと変わりましたね。海を越えて飛び込んできた虫をその時点で叩くのが一番の防除方法です。最近開発されたウンカ用の殺虫剤はそれまでのものより環境負荷もおおむね低くなっています。
殺虫剤に抵抗性をつけた虫が飛んでくるのはとんだ迷惑だと感じるかもしれませんが、同様に香川県で抵抗性をつけた野菜の害虫コナガやシロイチモジヨトウなどが東日本や北日本に飛んでいくこともあります。大事なのは知識と、農薬も多数人が使い、使いすぎで目減りする資源であると認識することだと思います。
虫ではありませんが、最近の田んぼでの困りごとといえばスクミリンゴガイ(ジャンボタニシ)ではないでしょうか。うちの田んぼで初めて見かけたのは2004年の秋でした。稲刈りの際に畦畔にうみつけられた卵を見つけたのです。その年は台風が多くていろんなものが田んぼに流れてきていました。それからあっという間に増えましたね。
対策はいろんなところに書かれているのでここでは触れませんが、最近ふれてハッとしたものを紹介します。ジャンボタニシも温暖化の影響でミナミアオカメムシなどとともにどんどん北上し、今では千葉県あたりでも大問題となっているようです。もう公開が終了してしまったのですが、千葉県農林総合研究センターの研究成果発表の動画を見ていましたらジャンボタニシ対策で面白い成果がありました。西日本ではもうおなじみとなったジャンボタニシ対策、厳冬期のトラクター耕うんによる防除についてです。厳冬期にロータリーの回転数を上げて耕うんすると、貝に傷をつけたり寒風に当てたりしてジャンボタニシを防除できますが、その際のより効果的な土壌条件を検討していたのです。それによりますと、土が固く締まっているときのほうが貝が土に固定されているために貝にロータリーが当たりやすくなるそうです。確かにほぐれた土では貝がロータリーの間をすり抜けてしまいそうです。ということは稲刈り後すぐに一旦耕うんしてしまうのは労力がかかるだけでなくジャンボタニシの防除にも逆効果ということになります。
東京都も含めた47都道府県に農業を研究する公的機関が設置されています。わたしたちが習慣として当たり前に行っている作業も他県の農家にとっては決して当たり前ではなく、そのためにその県の研究機関が新たに検討を加えることがあります。そういう研究成果は大変貴重なのでぜひ利用させてもらいましょう。「○○県+農業試験場」で検索するとコロナ禍でも楽しい楽しい国内研修旅行ができますね。ただし、その土地の気候や土壌の性質の香川県との違いは常に意識しておく必要があります。
今回ご紹介する本は、最近読んだ
『香君(上下巻)』上橋菜穂子∥著 (F ウエ)
ファンタジー世界の農業試験場の研究者たちがイネの害虫と戦う物語と言えるかもしれません。一難去ってまた一難。国民を支える穀物を維持するのは大変なことです。下巻巻末の参考文献には応用昆虫学や生態学の名著が並んでいてこちらもみんな面白いですよ。
いかがでしたか?私たちスタッフも、夏になると家に入ってきてやっかいだなと思っていた、あの緑色の小さな虫を「ウンカ」だと信じていたのに、実は違っていたという事実に驚愕しています。笑
4月28日に予定していた農業講座『益虫を上手に利用した夏野菜』は残念ながら中止になってしまいましたが、その内容は次回、こちらのブログ版農業講座でご紹介させていただきますね。お楽しみに♪