最後の寒さが通り過ぎ、3月の声を聞くとなんとなく日差しの柔らかさが感じられるようになってきますね♪
まもなくまんのう町立図書館も再開し、新しい春を新しい気持ちで迎えられることを楽しみにしています。
今回のブログは、昨月お届けしたブログ版農業講座「みんな知りたい病害虫のこと」後編「イネにつく虫」のパート①です。カメムシについて、農業講座講師の豊嶋和人さんに教えていただきました。
【みんな知りたい病害虫のこと 後編①カメムシ】
イネにつく虫で去年びっくりしたのがイネカメムシの発生です。
他県で多発しているという話は聞いたことがあったのですが、うちでははじめて見ました。いやあ、きれいなカメムシですねえ。
右の写真は幼虫です。こちらはこちらでかわいい。
でも、かわいいとかきれいとか言ってもいられないんですよね。多発すると、お米に黒い斑点がつくいわゆる斑点米だけではなく、真っ白になって実が入らない不稔の症状まで引き起こしてしまいます。今回この虫を発見した経緯も、田んぼに水を入れに行ってもらった母から、「白穂があるんやけど見てくれんか」といわれて観察していたらおったというものでした。
このイネカメムシ、昔はたくさんいたようなのですが、戦後の化学農薬の大量散布によってほぼ見なくなっていた虫です。イネカメムシで論文を検索すると、1970年代まではたくさん論文がみつかるのですが、それ以降はずいぶん減ってしまいます。いないから研究もされていなかったというわけです。
今頃になって復活した原因はいくつか指摘されています。
① イネの作型分散で餌が長期間供給されるようになった。
これはミナミアオカメムシの増加についても同様に言われていますね。去年、初夏にほとんどいなかったミナミアオカメムシが夏の間に水田ですごく増えたのには驚きました。
② 耕作放棄地などイネ科雑草の増加。
これはクモヘリカメムシやアカスジカスミカメなどの斑点米カメムシでも同様な指摘がされています。「畦畔の草刈りはイネの出穂2週間前に終わらせる」という話を聞いたことがある方もいらっしゃると思います。その理由は草刈りによって畦畔から田んぼにクモヘリやアカスジカスミカメ等のカメムシを追い込んでしまわないことにあります。うちでイネカメムシが発生したのも、近くに耕作放棄地や夏場耕作しない圃場がいくつかある田んぼでした。
画像が荒いですけどクモヘリカメムシです。虫の上にはいもち病の病斑も見えますね。とほほ。
下は畦畔のクローバー上のアカスジカスミカメです。
減農薬・無農薬にもいろんなケースがあると思います。名人が巧みな技術と観察力で作り上げるケース。大規模化、高齢化、米価の低迷などでコストや手間がかけられなくて結果的にそうなるケースなど。いずれにしても昔よりも農薬による害虫の淘汰が減った結果、昔から水稲に依存して生活している虫がまた個体数を増やしている可能性はありそうです。
さて、この古くて新しい虫を防ぐにはどうしたらいいのでしょう。香川県に先立ってイネカメムシが復活した広島県のある地域では地域で作付する米の品種や田植え日を揃えて出穂期にドローンで一斉防除を行っているそうです。なるほど、餌の供給される期間を減らして防除の手間もドローンで解決、そうすれば耕作放棄地も減ってイネカメムシの増加もさらに抑えられるかもしれません。
ただ、今後心配なことがあります。農薬取締法改正によって農薬に対する環境規制がより厳しくなり、評価の仕組みも変わりました。現在イネカメムシやミナミアオカメムシの防除に使っている殺虫剤が少なくとも稲穂が出ている時期には数年内に使えなくなるかもしれないのです。大型のカメムシを防除できる殺虫剤は限られていますが、どの殺虫剤もミツバチに対する毒性が比較的強いという問題点があります。50年以上前にイネカメムシを駆逐した殺虫剤の多くは人畜毒性や環境毒性が強く、とうの昔に退場しています。殺虫剤の歴史はターゲットとなる害虫以外の生き物への毒性を減らす歴史でもありますから、当然のことです。
さあどうしましょう。今回の法改正のモデルとなっているEUの制度では、禁止となった農薬でも農家が困ったときには柔軟に許可が出るようになっていますが、日本でもそうなるのでしょうか。あるいは新たな防除法が開発されるのか。先日、試験場の研究者や農薬メーカーさんとの雑談のなかで、田んぼの端から端に渡した網を2機のドローンで引っ張ってカメムシを大量に捕まえて、できれば食材として売りましょうってわりと真顔で提案しました。が、変な空気が流れただけでした。みなさんはこの案、いかがでしょうか?
イネにつく虫編とうたいながらカメムシのことしかお話しませんでしたので、次回、イネにつく虫編②に続きます。
今回紹介する本はこちらです。
『わたしたちのカメムシずかん やっかいものが宝ものになった話』鈴木海花∥文、はたこうしろう∥絵(486 ス)
去年の小学校中学年の課題図書でしたからご存知のかたもいるかもしれません。「わたしたち」にはこどももおとなも含まれます。きもちわるいの前に知らないことは調べてみる、それをみんなで本気でやってみたらどうなるか。ぜひおとなにも読んでもらいたい児童書です。
では、次回「イネにつく虫②」をお楽しみに!