第12回 ブログ版農業講座「みんな知りたい病害虫のこと 前編」

新型コロナ感染者の急増で再び休館することとなり、予定していたおはなし会やイベントを楽しみにされていた方も多いなか、利用者の皆さんにはご迷惑をおかけしています。

今回のブログは、今月24日に開催予定だった農業講座『みんな知りたい病害虫のこと』をブログ版に変更し、お届けしたいと思います。ご予約いただいていた方もそうでない方も、お楽しみいただければうれしいです♪

今回も講師はもちろん、豊嶋和人さんです。

 

【みんな知りたい病害虫のこと 前編】

寒い日が続きますねえ。

これだけ寒いと虫がいないと思いきや、探せば結構いるもので、結球白菜の外葉を一枚めくるとオサムシやハネカクシが現れたり、うっかりアブラムシがわいていたり、そういうところではアブラムシを食べるヒラタアブの幼虫も元気に食事をしてますね。

開催予定でした農業講座では参加者の皆さんのお困り病害虫を伺っていたんですけど、全て虫の相談でしたので、今回は最近新たに発生した虫や新しい技術の話を交えながらお答えしていきたいと思います。

 

まずはアブラムシです。

真夏以外はいつでもどこかにいますよね。困ったもんです。一番多い季節は春か秋でしょうか。まずはアブラムシを食べる虫が増える環境を畑に作ってみましょう。昨年春の農業講座でもお話したのですが、畑にお花がたくさんあると、ヒラタアブのような成虫が花粉を食べ幼虫がアブラムシを食べる虫が集まってきます。おすすめは春の菜の花、キンセンカです。

そういえば先日オンラインで参加した天敵利用研究会の大会では面白い発表がありました。ある試験場の圃場で、年中お花畑が維持できるように19種類もの花の種をミックスしてある「ミックスフラワー」の種を播いて一年間観察したんだそうです。するとヒラタアブや、アザミウマを食べてくれる雑食カメムシのヒメハナカメムシ・タバコカスミカメなどがとてもたくさん集まってきたとか。やはりお花畑作戦は有効のようです。

もしアブラムシが増えすぎて天敵昆虫では食べきれなくなってしまった場合は農薬を使うことになりますが、できるだけ天敵に影響の少ない殺虫剤を使いましょう。アブラムシを打ち漏らしたり虫が再び増えてきても天敵がいれば食べてくれますからね。昆虫が呼吸をする気門を塞いで窒息させる気門封鎖剤という種類の殺虫剤がたくさん市販されています。油脂やでんぷんなど、べたべたした液体を主成分にしているもので、たいていはハダニやコナジラミやアブラムシ、そしてうどんこ病にも効果があるとして登録がされています。アブラムシに効果が高いのはでんぷんや還元水あめを主成分にした、油脂よりも粘度の高い気門封鎖剤です。油脂系のものはどちらかというとハダニを得意とします。

 

続いては冬野菜につくイモムシを農薬を使わずに防ぐ方法についてです。

ご質問のなかにもあったのですが、防虫ネットは成虫のガや蝶の侵入を防ぐいい方法です。が、注意点が2点あります。ひとつはイモムシがつく季節は比較的高温多湿ですから虫をふせぎつつネットで蒸れないような目合いを選びましょう。蒸れると徒長や病気の原因になりますから。ガや蝶の成虫の侵入を防げる一番大きな目合は4mmです。防虫ネットとして売られているものはアブラムシやアザミウマを想定して0.4mmから1mmのものが多いのですが、防風ネットなら4mmのものがありますから流用してもいいかもしれません。もうひとつの注意点は、ハスモンヨトウという8月9月に多く発生する虫はネットの外側に卵のかたまりを産み付け、幼虫が網目をくぐってネットのなかに侵入することがあります。卵は塊になっていますのですぐわかります。もし見つけたら取り除いてしまいましょう。

イモムシの天敵にはどんな生き物がいるでしょうか。スズメバチやアシナガバチはイモムシをよく捕って巣に運びますが、ちょっと人間も近づきにくいですね。ハチ以外でいちばんイモムシを捕食するのは、コモリグモやハサミムシ、ゴミムシ等の肉食のクモや甲虫類です。あと、先程アブラムシで天敵として挙げましたヒラタアブの幼虫も、イモムシが小さいうちは食らいついてくれます。

ヒラタアブを増やすにはお花が大事と書きましたが、地上を這っているクモや甲虫類には低い草をはやしておくといい生息場所になるようです。ソバや大麦を野菜のまわりに生やしておくと増えるという研究もあるのですが、なかなかそれも大変です。もし畑の外周の肥料をまいてないところや畦畔にクローバーが生えていたらそこは耕うんや除草をせずに置いておきましょう。地上を這う肉食の虫たちの生息場所になります。クローバーの花にはヒメハナカメムシも集まります。

イモムシついでに最近日本に侵入したちょっと心配なイモムシを2種紹介します。

まずは3年前にはじめて確認されたツマジロクサヨトウという海外ではトウモロコシの大害虫として知られる虫です。日本では南西諸島以外では越冬できないので毎年ジェット気流に乗って中国南部やベトナム、台湾あたりからやってきます。うちでは一昨年に9月取りのスイートコーンに幼虫がついているのを見ました。

とにかくよく動いてよく食べてよく糞をします。海外で問題になっているのもわかります。ただ、後述するトビイロウンカ同様気流次第なところがあるので発生は風まかせのようです。去年はトビイロウンカともども見ませんでした。

もうひとつはトマトキバガという名前の通りトマトの大害虫として知られる虫です。小さな幼虫がトマトの実のなかに入ってしまうそうです。去年の秋以降に九州のトマトハウスで確認されています。殺虫剤が効きにくいことから、南欧やアフリカでは天敵のタバコカスミカメをハウスに放って防除しています。

イモムシではないですが、全国的に分布が拡大していて香川県でも去年の秋に確認された虫を紹介しておきましょう。ちょうどうちにもいたんですよ。

左の写真、葉が白くなってしまってますけど、病気ではなく、ネギハモグリバエ新系統とか別系統とかB系統とか呼ばれている虫の食害です。

右の写真では白い食害跡のなかに黒い幼虫が見えます。ハモグリバエは別名エカキムシと呼ばれます。まるで絵を書くように線状に葉のなかを食べ進んでいる食害跡をネギ以外の野菜や花の葉でも見たことがある方もいらっしゃると思います。この新しいネギハモグリバエの系統は、多数の虫が葉の中を猛烈に食べて、あたかも食害跡で葉を塗りつぶしたようになってしまうのが特徴です。エカキムシならぬヌリエムシとでもいいましょうか。当然従来からいるネギハモグリバエより被害が大きいので注意が必要です。すでに定着した他県では、従来の系統がこちらの新系統に置き換わっているところもあるようです。対処方法は従来の系統と変わらない薬剤防除なのですが、被害が大きくて無視できないのが困ったところです。

畑の虫だけでずいぶん長くなってしまいましたので、イネにつく虫は次回やりたいと思います。こちらは今年からはじまる農薬の新しい規制も関わってきます。

 

さて、今回ご紹介する本は

『虫の卵ハンドブック』鈴木知之∥著 (4861 ス)

畑を観察しているときれいな虫の卵を見ることがあります。それだけで楽しいですが、その卵が害虫のものか益虫のものか分かれば、菜園仕事の助けにもなります。卵だけじゃなく成長した姿もちゃんと載っています。


次回、後編「イネにつく虫」をお楽しみに!

 

 

 

 

カテゴリー: 未分類 タグ: パーマリンク