第11回 ブログ版 農業講座「さむい冬をどうやってしのぐかのお話」

寒さも本格的になってきましたね。

あたたかい料理が恋しい季節ですが、おいしい冬野菜は冬の寒さを耐え抜き、栄養と旨味をぎゅっと体の中にため込んでいるのでしょうね。

今回の「ブログ版農業講座」では、そんな寒い冬を乗り切る工夫や知恵を、たっぷりと教えていただきます。

講師はお馴染み、大人気の豊嶋和人さんです。

 

【さむい冬をどうやってしのぐかのお話】

 

秋があったかくてレタスがよくできる(お安い)のはもう毎年のことになりましたが、今年はラニーニャ現象で寒い冬がやってきそうです。実は去年の冬もラニーニャ現象でしたが、寒かったのは12月中旬から1月中旬の約一ヶ月間だけであとは平年よりもだいぶ暖かく、冬季全体で見ると暖冬になりました。

ここで早速少し余談ですが、毎度おなじみミナミアオカメムシ(第8回参照)が今年の春から初夏にかけてはほとんど見られませんでした。おかげでオクラやナスやスイートコーンでは助かりましたけど、なぜいなかったんでしょう。ミナミアオカメムシはいちばん寒い月の平均気温が5℃を下回る土地では越冬できないとされています。1月も2月も平均気温は5℃を越えていました。ところが寒かった12月中旬からの一ヶ月間の平均気温をとってみると5℃を切ってたんですね。なるほど先人の研究の通りでした。下の写真①は、晩秋のミナミアオカメムシです。日照時間が短くなるとこういう色に変化し活動量を減らして越冬の態勢に入る個体が増えてきます。

 

写真① 晩秋のミナミアオカメムシ(本人撮影)

 

今年の冬の話にもどしますね。極端な寒さにさらされると作物は生育を止めてしまいます。何度も霜に当たると傷んでしまうこともあるでしょう。今回はそれをうまく回避してクリスマスやお正月に美味しい野菜を間に合わせるコツを紹介します。

その前に、畑そのものの保温力を考えてみましょう。じつは日当たりがいっしょでも畑によって地中の温度は微妙に異なります。主な原因は土壌粒子の大きさです。土壌粒子の大きさはざっくり3種類に分けられます。砂>シルト>粘土の順に粒子が大きくなります。土壌粒子が大きいほど地温が上がりやすく、冷めにくくなるんです。大きな粒子ほど溜めた熱が冷めにくいですし、そういう土は水はけがよく乾燥していることが多いので気化熱を奪われることが少ないためです。というわけでいわゆる「ガラク」のような砂っぽい田んぼのほうが地温が下がりにくくなります。

先日の農業講座でも紹介したんですけど、日本中の農耕地の土質(土壌の種類)・土性(土壌粒子の大きさ)を細かく分類した地図「土壌図」が公開されています。これを見ると、田んぼがどんな土質・土性に分類されるかが分かって便利です。ほぼ全てが水田のまんのう町平野部には、グライ土、灰色低地土、褐色低地土の3種類の土質があり、土性は砂地から重粘土質までまちまちなことがわかります。

農研機構 日本土壌インベトリー

 

砂っぽい土性のほうが真冬でも作物がよく生育します。1月取りブロッコリーや超極早生と言われる冬取りの玉ねぎなどでは、経験上土性による差が出やすいように思います。ただ砂地は乾燥しやすく、肥料も雨で流れてしまいやすいのでその点は注意が必要です。

土壌の乾燥や肥料の流亡を防ぐ便利な道具といえばマルチシートですが、マルチは種類の特性を知って選べば地温のコントロールにも便利です。シルバーや白のマルチは光を反射して地温を下げ、黒いマルチは熱を吸収して地温を上げると家庭菜園の本にもよく書いてあります。でも黒マルチの地温を上げる効果は地表近くに限られるんですね。なぜならば光線を通さないため、土を直接あたためるわけではないからです。というわけで、光線を全て透過させる透明のマルチが地温上昇効果は一番高くなります。しかし、困ったことに植物の生育に重要な可視光線も全て通すために透明マルチの下はあたかも温室のようになり、それはもう草がたくさん生えてしまいます。

そのため、植物が主に光合成に使う可視光線を通さずに、赤外線をなるべく通す工夫をしたマルチがいろいろと開発されていて、それがまた色とりどりで楽しいんですよ。下の三色盛りはいずれも黒マルチよりも地温を上げる効果の高いマルチです。(写真②)

 

写真② 三色盛りマルチ(本人撮影)

 

 

ではどれだけ地温が上がるか、11月下旬の晴れた日の夕方4時頃、10cm下の地温を計ってみました。

まずはマルチを張ってないにんにくの畝です。(写真③) 上の0.23という数字はEC(電気伝導率)といって、土の中の水にどれだけ養分や塩類が溶けているかを示す数字です。下の数字が地温です。13.6℃ですね。

写真③ マルチを張っていない状態(本人撮影)

 

 

続いて黒マルチです。(写真④) 15.5℃に上がりました。余談ですが、レタスは肥料食いなのでECも高いですね。

写真④ 黒マルチを張った土(本人撮影)

 

 

次は青マルチです。(写真⑤) 黒っぽくて草を抑えつつ、光線を少し通します。黒より高く、16.8℃になりました。

写真⑤ 青いマルチを張った土(本人撮影)

 

 

最後は茶色いマルチです。(写真⑥) 赤外線をたくさん通しますが、草も結構生えます。さすが、18.7℃を叩き出しました。

写真⑥ 茶色のマルチを張った土(本人撮影)

 

そもそも地温が上がると生育がよくなるのはなぜでしょうか。地温が上がれば地温と、地表付近の温度も上がるでしょうから単純に植物の活動が活発になります。あとは土の中の微生物の働きも活発になって、有機物の分解によって作物に肥料分が供給されやすくなります。

さらに生育を促進してやろうと思えば作物の周り全体を保温してやる必要があります。そうしたら霜からも守れますしね。ビニールハウスや、ネギやレタスで行うトンネル栽培などがおなじみです。ところがそれらはなかなか費用もかかりますし、トンネルだと設置や片付けの労力も大変です。そこで、そこそこの保温力と手間で作物全体を保温してやる不織布のべたがけがおすすめです。

こちらが一般的なべたがけのかけかた。(写真⑦) 作物のうえにそのままかぶせて数mおきに専用のピンで押さえてやります。短辺はたるませておいていいのですが、長辺はたるみのないようにピンと張り、始点と終点を丈夫な杭に巻きつけるなどしっかりと留めるのが飛ばないコツです。

 

写真⑦ べたかけの畝(本人撮影)

 

最近個人的に気に入ってる張り方が、トンネルの支柱を立てて、不織布を2重に張る方法です。(写真⑧) 背の高くなる作物に使います。適度に風を受け流す不織布の性質はそのままに2重に張ることで抑えが効くので、留めはトンネルのようにマイカー線を用いなくても、不織布の留め具だけで済みます。写真⑧は春先のオクラです。

 

写真⑧ トンネルに支柱を立てて不織布を2重に張った畝(本人撮影)

 

さて、今回の参考となる書籍は、

『農家が教えるマルチ&トンネル (張り方・使い方のコツと裏ワザ)』          農山漁村文化協会/編 (626ノ)です。

 

全国各地で行われている保温のワザが紹介されています。読む際の補助線をひとつ引いておきたいと思います。

被覆資材を固定するのに杭とマイカー線を使う方法と、裾に土を乗せる方法がありますが、これはそれぞれちゃんと理由があります。ポイントはその土地の土質土性と、換気の方法です。砂や火山灰のようなサラサラとした土では杭が抜けやすいですから、裾に土を乗せて留めます。サラサラとした土は片付けのときも楽です。

一方まんのう町の水田土壌のような土では、ビニール等の裾に乗せるとあとが大変です。

そして換気。土で留めたトンネルは裾をまくって換気ができませんから、最初から穴の開いた被覆資材を使うか、気温の上昇に応じて穴を開けていきます。杭とマイカー線を使うトンネルは裾をまくって換気ができるので、換気の面では楽でコントロールがしやすいと言えます。

こんなところまで、土の性質は関わってきます。冒頭紹介しました地温の差も含めて奥が深いでしょ? というわけで、講座でもおすすめしましたけれども、土壌医検定をみなさんも受けてみませんか。12月14日が出願申し込みの締切りです。

 

チャレンジされる方は、下記よりお申込できます。

↓↓↓↓

土壌医検定公式ホームページ

私たちがおいしい野菜や綺麗なお花を手にできるのは、生産者さんたちが手間暇かけて、丁寧に作ってくださっているおかげですね。

豊嶋さん、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

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